2013年2月1日金曜日

エッセイ「人生探訪」仕事編No61

淡路黒岩水仙郷

 行きつけの飲み屋に素敵なママがいました。
来る男性はあわよくばママを口説こうという人ばかりです。
水商売の人ですが、そんなに水商売人ぽくなくておとなしい感じの美人です。
歌を歌わせれば非常に上手なのですが歌い終わったときに必ず気恥ずかしそうにします。その顔付きを見ていますと奥ゆかしく控えめな感じで大変好感を感じていました。
私よりも20歳も年下ですから、私などは対象外ですからあまり話すこともなく、ただそっと眺めながら飲んでいました。
ある日客は私一人という時がありました。私は口説くつもりもありませんし、二人きりですと何を話してよいか分からず、気まずい気持ちになりますので早々に帰ろうと席を立ちました。そうするとママは紙きれを私に握らせました。
帰り道でそれを開いて見ますと、「あなたの夢を時々見ます」と書いてありました。
びっくりしました。これまでに言い寄るような素振りを私も示したことがないし、そんな素振りを受けたこともありませんので「嘘」と思いました。
暫く考えました。仕事のことを考えますと仕事のパートナーには主人がいて家庭もありますが、20年以上も夫婦以上に力を合わせてやってきて、心情的には私に好意を感じてくれていましたので、私に好きな人が出来たといえば怒るだろう。
 仕事のことを考えればこれでその店には行かないほうが良いと分かっていたのですが、20年以上も独りの生活が続いていましたので、家庭の温かさに私は飢えていたのです。
好きと言われた、その気持ちを受け入れれば仕事の方は駄目になってしまうかもしれない。
断わらなければいけないという理性は働いていたのですが、そう思いながらも「話がしたい」という電話を入れていました。

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